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大阪地方裁判所 昭和56年(わ)5874号 判決 1982年5月13日

本籍

大阪府枚方市香里ケ丘一一丁目一三番

住居

同市香里ケ丘一一丁目一三番一七号

建売業

前川謹言

昭和一六年四月一〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき当裁判所は検察官藤村輝子出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一  被告人を懲役一年六月及び罰金二、八〇〇万円に処する。

一  右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

一  この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪府守口市本町一丁目三〇番地において、前川工務店の名称で住宅の建築販売業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上げの一部を除外、繰延べし、仮名預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年分の実際総所得金額が六、二三二万四、九七〇円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五四年三月一五日、同府門真市門真七六一番地の二所在の所轄門真税務署において、同税務署長に対し、同五三年分の総所得金額が二、二九七万七、九七五円でこれに対する所得税額が七九九万五、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額三、三五四万五、七〇〇円と右申告税額との差額二、五五五万四〇〇円を免れ、

第二  昭和五四年分の実際総所得金額が一二、四一七万三、七〇一円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず同五五年三月一三日、前記税務署において、同税務署長に対し、同五四年分の総所得金額が二、二四八万二、四五〇円で、これに対する所得税額が七三二万五、四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額八、三六四万九〇〇円と右申告税額との差額七、六三一万五、五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき、被告人の当公判廷における供述、第二回公判調書中の被告人の供述記載部分のほか、記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)記載の次の番号の各証拠

判示事実全部につき

3、6ないし156

判示第一の事実につき

1、4

判示第二の事実につき

2、5

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも行為時においては、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては改正後の所得税法二三八条一項に、各該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条によりいずれについても軽い行為時法の刑によることとし、いずれも所定の懲役と罰金を併科し、かつ各罪につき情状により所得税法二三八条二項を適用し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については、同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金二、八〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 金山薫)

別紙(一) 修正損益計算書

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

<省略>

○控訴趣意書(昭57・12・22取下げ)

所得税法違反 前川謹言

御庁頭書事件(昭和五七年(う)第一一九九号)について左記のとおり控訴の理由を申述します。

昭和五七年一〇月七日

右弁護人弁護士 河田日出男

大阪高等裁判所第一刑事部

御中

原審判決は被告人に対する罰金科刑につき可成りその情状を考慮されてはいるものの、結局懲役一年六月執行猶予三年の刑に併せて二、八〇〇万円の罰金を科したことは重きに過ぎ量刑不当であります。

以下諸般の情状を十分斟酌すると原審判決を破棄し、懲役刑はそのまゝとしてもさらに軽い罰金刑を言渡されるのが相当であると存じます。

すなわち、

一 本件逋脱事件は、起訴逋脱税額が二年度で合計一億一〇〇万円余でありますからこの数字だけをみますと少額事案とはいえませんが、その数字の中味、実体等を分析しますと、秘匿したとされる主たる所得の源泉は結局のところいわゆる売上の繰延べにかゝるものであります。

この売上繰延は、売上除外等と異なり、完全かつ究極的に所得を裏にするものではなく、翌期に売上計上をしていますので利益をば期間的にズラしたというにすぎないのが実体であります。

逋脱の犯意が存する場合でも事案の犯情によってその犯意に濃淡の差異があると思いますが、売上の繰延べによる場合には逋脱行為当時の被告人の認識としての犯意は淡い方に属するものと考えられます。

本件は、公訴事実記載の外形上の数額だけにとらわれませずにこの辺の事情をさらに十二分に考慮されるべきものと思います。

二 犯則調査に対する協力と公判審理等の態度をみますと、被告人は査察着手の当初から改悛の情がまことに顕著で自主的に洗いざらい申述し、公判でも公訴事実を卒直に認めごく短期間に結審できるよう終始心掛けてまいりました。

ことに無用な否認抗争など一切しておらず、罪は罪としていさぎよく受け早く綺麗にしたいと念願してきた真面目な被告人であります。

三 動機と手段についてみますと、被告人の行う建売業は競争がきわめて激しくしかも景気変動に直接影響を受ける大変不安定な事業であるうえに、被告人のような零細で弱少な企業が多数倒産しているのが現実であって、少しでも銀行等金融面で信用を得られるよう将来の安定のための備蓄と事業上やむをえない取引関係者への簿外支出金の捻出のため等から本件に及んだもので、情状憫諒すべきものがあると思います。

そして被告人のなした逋脱の具体的手段方法も前述のとおり売上の繰延べが主であってきわめて単純幼稚なものであります。複雑巧妙な手段を弄したこともなくまた外部者らと通謀する等の証憑隠滅を計ったことも全然ありません。

四 あと始末の状況についてみますと、

(一) 昭和五三年度分、同五四年度分につき昭和五六年一一月二八日にいずれも修正申告をなし、追加本税、重加算税を納付し誠意をもって後始末をきれいにするべくつねに努力を怠ったことはありません。

(二) 本件査察を受けて以後はガラス張りの正しい経理を実施することに改め、二度とかような事犯を犯さないことを固く決意し、根本的な改善策として自己のこれまでの事業を株式会社組織に法人成りすることとし昭和五七年二月一五日株式会社東洋生興を設立するとともに会社経理の帳簿等組織につきコンピューター化して社内の経理と管理体制を確立するよう改めました。

これによって二度と再犯のおそれはありません。

五 被告人は少年期からいかに苦労し辛酸をなめてきたか、そしていかように仕事一本に打ち込み不断の努力をしてきた人物であるかは、原審記録にもその一端があらわれています。

被告人の真面目な努力と人柄について高く評価されるべきものと思います。

以上諸般の情状について十分に斟酌されますと、被告人に対する併科罰金刑は逋脱税額の二三パーセント位の二、三〇〇万円位までに軽減されるのが相当であろうと存じ本申立に及んだ次第であります。

以上

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